20歳で馬術を始め、リオデジャネイロオリンピック出場、アジア競技大会での団体優勝など、次々と目標をクリアしてきた黒木茜さん。会社経営をしながら馬場馬術を続ける彼女に、馬との関わり方や、仕事とライダーの両立について、お話を伺いました。
乗馬との出会い、そしてオリンピックへ
——乗馬を始めたのは20歳だそうですね。
以前から家の近くに乗馬クラブがあるのは知っていたのですが、乗馬はハイソで、自分には手の届かないスポーツだというイメージがありました。20歳の時、姉に誘われて体験乗馬に行ったのがきっかけで、初めて馬に乗りました。その時から、馬の虜になってしまったんです。
——のめり込むきっかけは何でしたか。
元々動物が好きだったのですが、初めて馬にまたがった時に、馬の体温や拍動が伝わってきて、「生き物に乗らせてもらっている」という感覚を強く味わいました。それが“人馬一体”を感じるきっかけでした。馬と呼吸を合わせて、会話をするようにコミュニケーションをとることがおもしろく、のめり込んでいきました。
——そこからオリンピック出場までは、遠い道のりのように感じます。
はじめは、乗馬クラブの部内大会に出場することから始まりました。その後、部内大会で優勝して、ローカル大会に出場したんです。それからは、「ローカル大会で優勝したら、西日本馬術大会に出られる」「そこでいい成績が取れたら、全日本に出られる」という風に、乗馬から馬場馬術を意識し始めました。その積み重ねがリオに繋がりましたね。
——先日のジャカルタ・アジア競技大会では、団体優勝を成し遂げられました。
チームでは女性が一人だったのですが、男性陣は、馬のことや、私自身の精神面もサポートしてくださいました。団体戦では、馬とも一体になるけれど、チームメイトとも一体にならないといけません。普段は個人で戦うスポーツなので、チームが一体になって優勝できたことは、貴重な経験でした。
人とは環境が違う。それが自分のモチベーション
——乗馬は、小さな頃から始める人が多いですよね。
リオに出場した選手は、小さい頃からやっている人、馬を生業としている人ばかりですから、20歳で乗馬を始めて、別の仕事をしながら選手をやっているのは私くらいでした。出場を誇りに思う気持ちもありましたが、人より経験値が足りないことに対しては、焦りや危機感もありましたし、自分の未熟さも痛感しました。
——そのような経験が、東京オリンピックという目標に繋がっているのでしょうか?
リオが終わってから「自分自身はまだやれる、まだやらなければいけない」という思いがありました。東京大会で、他の選手との差を少しでも埋められれば、自分自身が成長を実感できると思ったんです。
——常に前向きに突き進んでいらっしゃいますが、続けるモチベーションは何でしょうか。
とにかく、馬が好き。乗ることが好き。試合に出たい。試合でいい成績が取りたい。それに尽きますね。「オリンピックに出たい」という目標も大きいと思います。
私は会社経営もしているので、1ヶ月のうち2週間は日本で仕事をして、残りの2週間はオランダでトレーニングをしています。不在の間は、スタッフが私の仕事を支えてくれています。私が海外でトレーニングができているのは、そういう方々のおかげ。「サポートしてくれるスタッフのためにも、頑張らなきゃ」という思いです。
——仕事と乗馬の両立は大変ですよね。
そうですね。私はトレーニングできる時間も環境も限られています。そのなかでオリンピックを目指すためには、他の人以上に、一回のトレーニングを大切にしなければいけません。「私の一鞍は他の人とは重みが違うんだ」と、いつも意識しています。
一方で、この環境は、自分の性格にとってはプラスになっています。もし、いつでも馬に乗れていたら、その環境に甘えてしまうと思うので。乗れない環境だからこそ頑張るというのが、自分の中でいい方向に働いていると思います。
——仕事と乗馬が、いい影響を与え合っているのですね。
「馬に乗りたいからこそ、仕事もがんばらなきゃ」と、相乗効果になっているのかな。ビジネスだけが成功しても物足りないし、馬術だけでも物足りない。二足のわらじを履いて、初めて私自身が成立するのかなと思っています。
このやり方が正しいかどうかはわからないですし、それについて振り返って考えることもありません。ただ一直線に、東京オリンピックという目標を掲げて、「そのために何をするべきか」だけを考えて動いています。
——まっすぐな姿勢が、周りの方に勇気を与えているのですね。
私がオリンピックに出場したことで、乗馬をしている人のあいだで「努力すれば、私たちでも出られる」と思ってくださる人が増えたと聞きました。それはすごくよかったなと思います。私でも行けたんだから、決して「お金がないから行けない」ということはないんです。大事なのは、きっかけと、タイミング。チャンスを掴めるかどうかだと思います。
——仕事と乗馬を両立する上で、大切にされていることは何ですか。
馬術は、馬がいなくては成立しないスポーツですので、自分よりも、まずは馬の体調や馬の気持ちを大切にしています。相棒にいつもご機嫌でいてもらうことが、競技を続けていく上で一番大切です。
馬は繊細なので、ライダーが緊張すれば、同じように体が固くなりますし、「何かおかしいぞ」って感じ取るんです。ときには、馬に乗る余裕がないほど忙しかったり、仕事で何かトラブルが起きたりと、気分が乗らない時もあるのですが、馬の上に座った時には、いつも気持ちを一定に保つように心がけています。
——日本と海外では、乗馬を取り巻く環境も違いますか?
ヨーロッパの方が日本より馬術が盛んなので、経験を積むという面では有利な面があると思います。日本は土地も狭いですし、競走馬の文化が根強くあります。馬術の普及にはハードルもありますが、もう少し気軽に乗れるようになるといいですね。
——それは、“気軽に乗れる環境”という意味でしょうか?
環境もそうですが、マイナー競技なので、資金面でのサポートをしてくださる人や企業が少ない点は、課題だと思っています。一方で、日本はアジアの中では、乗馬大国だと思うんです。ですから、そういう意識とプライドを持って、馬術を普及させていく義務があるのかなと思っています。
——普及するためには、どうしたらいいでしょうか。
日本の馬術にも、もう少しサポートの文化が根づけば、日本の選手が世界で活躍できるチャンスが生まれると思います。自分自身がそのことで苦労してきましたので、将来的には、自分の夢のひとつとして、有望な選手のサポートができるといいなと思っています。そのためにも、今やれることはしっかりやらないと。いいことも悪いことも、私自身が経験しておかないと、力になれないですから。
財布の機能性に惹かれた、Whyとの出会い
——Whyとの最初の出会いを教えてください。
最初に手にしたのは、Whyのお財布でした。馬モチーフが気になったのもありますが、一番気に入ったのは機能性です。ポケットが多いので、会社用と個人用で財布を分けなくてもいいですし、カードもたくさん入ります。ラウンドジップで大きく開きますし、小銭も見やすくて、取り出しやすいんです。この機能性に一目惚れして、手放せなくなりました。これ以上に使い勝手のいいものがないんですよ。もう3年ぐらい使っていますが、へたらずに丈夫なんですよね。このデザインの財布は、他にはないと思います。キーケースは、同じハーネスプリントのオレンジで揃えたんです。
——ライダーズバッグもお使いいただいていますね。
はい。ライダーズバッグも気に入っています。リオオリンピックの時にいただいてから、試合や試乗に行く際には、背負って行きますよ。機内にも持ち込めるので、ありがたい存在ですね。一般的なライダーズバッグは、手提げのものが多いのですが、Whyのライダーズバッグはリュックなので、背負っても両手が空くのがいいですね。「なんで今までなかったんだろう」って思うぐらい、重宝しています。
外国の方からも「それ、いいね」って言われますよ。海外のバッグは、ブーツ用、ヘルメット用と分かれているんです。ひとまとめにして、機能性を重視する発想は、日本独特ですよね。
——他に気になるアイテムはありますか?
「エアー」という新素材を拝見して驚きました。今は、防水性があって軽い、スポーツタイプが流行しているのですね。最近のお気に入りは「DADA」です。ビジネスにも使えるし、デザインも素敵ですよね。
——いま取り組まれている、Whyとのコラボアイテムも楽しみです。
今回のコラボでは、日本と海外を行き来している私だからこそ「あったらいいな」と思うものを、一緒に作っています。まず何より、海外へ行く機会が多いので、「スーツケースの中をすっきり整理したい」という思いがありました。そして、せっかく作るのだから、乗馬の試合会場にも持っていけるように。カラーリングにもこだわっているので、楽しみにしていてください。
——今後の目標を教えてください。
今は、アジア大会も終わり、ホッとしているところです。アジア大会までの相棒だったToots(トゥッツ)は高齢なので、東京オリンピックに向けては、新たに若い馬が必要になります。今後、どのように馬たちと出会い、どのように獲得するのかを、真剣に考えていかなくちゃいけないなと思っています。
——相棒の決め手となるのは?
乗った時のフィーリングですね。馬に跨った瞬間、並足を始めた瞬間のフィーリングで決めます。「これだ」という馬は、手綱をとった時点でわかります。相棒に出会えるかどうかは、運とタイミングが重要なので、運に恵まれるのを待つしかないですね。自分に合う素敵な相棒が見つかったら、あとは、東京オリンピックに向けて、猪突猛進に頑張るのみです。
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黒木 茜 Akane Kuroki
1978年、兵庫県生まれのドレッサージュ(馬場馬術)選手。20歳で馬術を始め、ほどなく国内大会に出場。国際大会での経験を重ね、2016年にはリオデジャネイロオリンピック出場、2018年にはアジア競技大会に出場し、団体優勝を果たす。介護施設の経営者として多忙を極める中、東京オリンピック出場を目指し、トレーニングを続けている。